天青石の欠片

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遠い世界の物語5

2007.05.18 遠い世界の物語
告白から幾日か経ち再び男が神殿に訪れました。
巫女は悩みに悩みましたが魔法使いの言葉に後押しされ、男に愛していることを告げました。
男は大変喜びましたが、巫女はあまり浮かない顔をしています。それに気付き男が理由を問うと巫女はぽつりと呟きます。
「あなたを本当に愛しています。けれど私は己の全てを神に捧げ世界を愛さねばならぬ身。あなたと共に生きてゆくことは叶いません。ですからどうか、私のことはお忘れになってください」
悲しみを帯びたその声音は男の胸を刺し、けれど同時に火を点けました。
「ならば神からあなたを奪うまで。世界もあなたも必ず俺が守ると誓う。だから共にここから出よう。共に世界を見に行こう」
見透かし射抜くような強い瞳に巫女の心は激しく揺さ振られました。この人ならばあるいは本当に世界も自分もその腕で守りぬいてくれるのではと、そう思わずにはいられない強く甘美な力です。
けれどそれでも巫女は中々首を縦に振ることができません。物心ついた頃から世界のためだけに生きてきた巫女は、世界を捨ててまで己の我を通すことがどうしても出来ずにいました。

「巫女」

甘い花の香りと共に唐突に現れたのは、白い魔法使いでした。縋るような目で魔法使いを見る巫女に、魔法使いはゆっくりと言葉を紡ぎます。
「巫女。もういいのです。あなたはもう、自由になっていいのです。あなたの祈りを聞く神は、もういないのです」
巫女は目を見開いて、どういうことなのか問いました。
「神は神であることを放棄したのです。世界は神の手から離れました。もういない神に、祈りは無意味です」
何故そう言い切れるのか、男が問えば、わかるからですと一言、静かに揺るぎなく放ちます。
「神官達も気付いているはず。それでも、人は強い何かに縋りたくなる。例え、もういないとわかっているものでも」

本当にもう神がいないのか不確かであるのに、魔法使いの言葉は真実であると思える魔力でもあるようでした。
今までの時間は無意味であったのか。巫女は悲しみのような虚脱感のような言い表わせない気持ちに涙しました。

「祈りは神に届かなかったけれど、私には届きました」
魔法使いは巫女の元へ歩み寄り、巫女の背負う小さな翼をそっと撫でました。すると、巫女の巫女である証であった戒めの白い翼は泡のように跡形もなく消えてしまいました。巫女は驚きましたが、肩の荷がすっと下りたような解放感に小さく安堵し魔法使いを見つめます。

「どんなに神に祈りを捧げても、戦は起こります。不幸は巡ります。悲しみは耐えず苦しみは続きます。それが世界です」

その言葉は、戦場を駆けて生死の境を潜り抜け、多くの命と悲しみを糧に平和を築き上げた王の心にちくりと刺さりました。
けれど。と、魔法使いは続けます。

「傷付き疲れ果てても、それでも必死に乗り越えて懸命に生き抜こうとする。それが人です。神の愛した、人の姿です」

魔法使いの手にはいつのまにか種が握られていました。魔法使いのように白い、小さな種です。

「愚かで美しい世界を生きる人。世界を知り、生きて、生き抜いて、そうして最後に幸せだったと言えるような軌跡を」
男と巫女の足元に移動の魔法陣が浮かび上がります。
「いきなさい、世界へ」

男は巫女に手を差し伸べます。

「いこう、世界へ」

使命から解放された巫女であった少女は、迷わず男の手をとりました。
魔法陣によりその場を離れる際に、少女は魔法使いに何度も何度もお礼を言いました。魔法使いは小さく微笑み、二人を見送りました。


二人が去ったその場所に、魔法使いはふぅと軽く息を吹きかけた小さな種を置きました。置かれた種は一度きらりと光り、瞬く間に成長を始めました。
あっという間に巨大な樹になった種は青い石の天井を突き破り、破片は雨のように床に降り注ぎました。
騒ぎを聞きつけて慌ただしく入ってきた二人の警備の神官は、そびえ立つ樹を見てあんぐりと口を開けて立ち尽くしています。

「巫女は神に祈りを捧げるため巨大な樹へと姿を変えられました。祈りはこの樹が枯れるまで、神に捧げられることでしょう」

樹の幹をそっと一撫でした真っ白な魔法使いは、そう言い残して霞のように消えてしまいました。

あとには樹と、散らばった青の破片、状況を必死に把握しようとしている警備の神官二人が残されていました。
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