天青石の欠片

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愛しき世界

2007.05.17 短編
飛び散った儂の力を回収する事がお主の役目であり存在理由だ。それを忘れるな。
頭の中に響く声。私を生み出した絶対的存在の、支配者の声。
薄く開いた目蓋の間から白い光が差し込む。光に慣れ視線を動かせば、そこには声の主の姿。
「役目が終わればお主は再び儂の中に還る。だから、余計な感情は必要ない」
口の端をほんの少し釣り上げた主君の言葉に、私はただ頷いた。




ゆったりと目蓋を開ければ、視界いっぱいに広がる青い空。流れる雲をぼんやり眺めながら先程の映像が夢というものだと理解し、遠くから聞こえる鳥のさえずりと風に運ばれてくる草の匂いに今自分がよく行く草むらに寝転んでいるのだと思い出す。
いつものように仁希は異界に住む恋人の所へ遊びにきたのだが、相手はそびえ立つ書類の山に埋もれており遊んでもらえる雰囲気ではなかったので仕事の邪魔にならないよう一人でここに来ていた。
彼女は外見は十代後半だが生まれてまだほんの少ししか経っておらず、知能は未だ幼児レベルな部分がある。まだ何の知識もなかった頃にうっかりこちら側の世界に来てしまい、居合わせたティムに様々な知識を教わり、今も日々勉強している。人と触れ合ううちに次第に感情も芽生え、ぎこちない部分も多々あるが日に日に「人」らしくなってきている。
色々なものを見、聞き、触れ、感じることができるのが楽しい。こうして草むらに寝転がってただ空を見上げているだけでも仁希にとっては楽しいひとときだ。
うとうとと再び閉じ始める目蓋を擦る。降り注ぐ陽の光がぽかぽかしていて気持ちがいい。眠ってからまだそんなに時間は経っていないようだ。
今度はティムも一緒に来れるといいな。そう考えた瞬間。

リィ―――ン。

鈴の音に似た危険信号が頭に響き目を見開く。上体を起こすといつの間に現れたのか、人のような形をしたものが微動だにせず宙に浮いていた。
「…………虚空……」
虚空。支配者の飛散した力が実体化したもの。あらゆる物質を無に還しそのエネルギーを喰らうソレは、近くに同じ存在がいるとより強くあるために“共喰い”を始める。仁希の目の前に現れた虚空は彼女の気配を感じ取りこちら側の世界までわざわざやってきたらしい。
瞬時に仁希の頭の中が切り替わる。一切の感情を排除しただ役目を果たすために動く機械と化す。
いつもの彼女からは考えられないスピードで地を蹴り虚空に飛び掛かるが、虚空はその長い腕で仁希を容易く薙ぎ払う。仁希は勢い良く地面に叩きつけられ少し咳き込むが、直ぐに体勢を立て直し短く息を吸う。
虚空の活動を停止させるには“核”を外殻から引き剥がせばいい。核の場所が視えるよう造られた仁希は頭部に核があることを確認し短く言葉を紡ぐ。
「……四肢を断て。零式・虚撃」
仁希の放つ言葉が力を纏い虚空の手足を一瞬で滅する。四肢を失いぐらつく虚空。その隙を狙い頭部――核へ腕を伸ばす。

「――――あ……」

頭部まであとほんの少しというぎりぎりの距離で仁希の体は静止した。見ればついさっきまで草の生えていた場所が虚空を中心に大きく抉られたように茶色の土を覗かせ、先程滅したはずの腕が布のように変化して仁希に巻き付いている。
辺り一帯の地面を消滅させそのエネルギーで腕を再生させた虚空は仁希を締め上げ、もう一方の腕がずぶりと音を立てて彼女の体内に入り込む。
体内を這いずり回る感触。口元にまで巻き付いた腕は仁希の攻撃の言葉の具現化を遮り、それならとか細い腕を限界まで伸ばすが、虚空の腕は己の核から仁希を遠ざけ、より深く片腕を潜り込ませる。
これは、絶体絶命っていうのかな。己の危機に関心を持たない仁希はぼんやりとそんな言葉を浮かべる。
そうしている内に這いずり回る虚空の腕は仁希の核を守る結界に辿り着いた。虚空にはないその結界はそう簡単に破られないようできてはいるが何度も攻撃を加えられれば脆くなる、ただの時間稼ぎの代物にすぎない。虚空は結界を攻撃し始め、その衝撃がビリビリと仁希の体を駆け巡る。
(……草……なくなっちゃった…………四つ葉のクローバー探して、ティムに持って帰って……あたま、なでてもらおう、って……)
ティム。このまま会えなくなるのかな。このまま会えなくなったら、ティムは悲しむのかな。……泣いて、しまうのかな。

役目が終わればお主は再び儂の中に還る。
だから、余計な感情は必要ない。

でも。おとうさん、私は。

仁希の核が熱を帯びる。
背にふわりと花が開花するように浮かび現れた翅がくるりとゆっくり回転しながら均等に離れ、そして消える。
その瞬間、虚空の体はばらばらに切り刻まれ、頭部を翅のひとつが貫いた。貫いた翅が核を引き抜き、ばらばらになった虚空はそのまま砂のように崩れて呆気なく消えた。
戻ってきた翅が核を仁希に渡す。仁希は手に納まった核をしばし眺め、口に含みごくりと飲み込んだ。飲み込んだ核は仁希の核に吸収され、仁希が還る時まで彼女の力となる。
そうして散らばった全ての力を回収し終えたら、本体である支配者の中へ還る。それが、約束だ。

(その日が来たら、ティムは……)

優しい目をした人。少し温度の低い大きな手。名前を呼ぶ声。微かに香る洗剤の匂い。
植え付けられた本能でなく、自分の意志で、愛しいと感じた人。

いつかその日が来たら、ティムは悲しむのかな。泣いて、しまうのかな。

(その日が来たら、私は……)

広い世界。この世界に生まれ、日々新しいものを見、聞き、触れ、感じること。芽生えた感情。世界がこんなにも輝いていることを、教えてくれる人たち。

いつかその日が来たら、私は悲しむのかな。泣いて、しまうのかな。

いつ来るのかわからない、けれどいつか必ず来るであろう別れの時に思いを馳せながら、目の前に広がるこの抉れた大地をどうしようか仁希は大いに悩み始めた。
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