天青石の欠片

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花のかけら、ひとひら。

2006.06.22 短編
気が付けば、そこにいた。

見回しても暗闇が広がっているだけの世界。地に足が着いているのかもわからない。出口を捜して細い糸を手繰り寄せるように前へ前へ進んでいく。足が動いているのかわからないが、それでも前へ進む。
瞬間、唐突に白に包まれ視界が開ける。
薄い青の空。綺麗に手入れされた赤い薔薇園。小さな白いベンチ。人影が二つ。
人影は次第に色を付け、黒い髪の少年と、白い髪の少女に変わる。
少年は朝露を受けとめて咲き誇る瑞々しい薔薇のような赤い瞳で、少女は冬の終わりを告げる雪解けに歓喜する春の空色をその瞳に宿していた。
兄妹のように、恋人のように、常に傍にいて微笑いあう二人。
頬を撫でる風は心地よく、咲き綻ぶ薔薇の香りはやわらかく鼻をくすぐる。少年が広げる古い本に綴られた文字は、彼の言葉によって再び命を与えられ物語となり少女の心を躍らせる。
世界が鮮やかに輝いていた時。永遠にこの日が続けばいいと、そう願った日。
穏やかな春が流れ静かな夏が過ぎ緩やかな秋が去り厳しい冬が幾度となく巡っても、二人は変わらず傍にいた。
やがて少年は青年になり、成長した少女はその身に軍服を纏う。
心は常に傍にあると互いに言い聞かせながら、二人は徐々に離れていく。
青年はずっと薔薇園のベンチで少女の帰りを待ち、少女はその細く白い手を赤く染め上げ心に傷を付けていく。

幾度目かの秋が来て、空を黒い雲が覆いつくしたあの日。
少女は戦場の中にいた。
敵は、つい先刻まで普通に暮らしていた人、ひと、ヒト。
病に冒され自我を失った“守るべき者”だったモノ。
少女はヒトであったものを次々と薙ぎ倒していく。
苦しみから解放できる唯一の方法なのだと何度も何度も己に言い聞かせながら。
そうしてついに最後の一人と対峙した時、少女はその場で凍り付いた。
……漆黒の髪。
薔薇のように鮮やかな赤い瞳の、大切な、あの人。
ずっと会いたかったはずなのに、会いたくなかった。
身体が震えて頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。心臓の音と呼吸の音がやけに耳に響く。
一歩、また一歩近づいてくる赤の瞳。逃げ出したくてたまらないのに身体が言う事をきかない。

夢なら醒めて冗談なら笑い飛ばしてお願いだからお願いだからお願いだからお願いだから。


「……ろ、し……」


今。
今、何て。


「…………ころ、し……て」



少女の中で、プツリと何かが切れる音がした。


赤い花びらのように、ソレは戦場に舞い散る。




「          。」







少女の意識は無数の黒い手に引きずり込まれていくように、再び暗い闇の底へと沈んでいった。





「…………」
再び目を開いたレイユールの視界に広がるのは、どこまでも続く暗闇ではなく見慣れた石の天井だった。
汗ばんだ身体はきちんとベッドの上に横たわっている。両の掌は何かに縋るようにシーツを握り締めていた。
夢を見たのだと認識するのにさして時間は要さなかった。
残酷な記憶から目を逸らすようにシーツから離した手で顔を覆うが、逆に目蓋の裏に焼き付いた映像は自分の意志とは関係なくぐるぐると再生されていく。
きっと自分はあの射るような薔薇の双眸から永久に逃れることはできないのだろう、と諦めたように苦い笑みを零す。少し前まで夢を見たら必ずと言っていい程吐いていたが今はもう慣れてしまったのか嘔吐感はあるものの吐くことはなくなった。
「……ロゼくん……」
薔薇の名を持つ青年。呼んでも応えてくれる人はいない。
「あれでよかったんだよね……?あれで……」
問い掛けの言葉は静寂に吸い込まれ沈黙がレイユールを冷たく包み込む。
ふいに彼の最後の表情と言葉が脳裏を過る。
彼は、最後まで微笑っていた。
優しい笑顔の人だった。
涙が一筋頬を伝う。
幸せだった日々に戻りたいと、死んで彼のもとへいきたいと思わなかったと言えば嘘になる。けれど過去に戻ることなどできるわけがないし、そして今は何より手放したくないものがある。
ロゼは怒るだろうか。恨むだろうか。こんなに短い期間でロゼ以外の人を愛してしまったことを。
「ロゼくん……」
名前を呼ぶ。相変わらず返事は返ってこない。
浮かぶのは彼の最後の微笑みと、言葉。

その笑みは、薔薇の花びらが、ひらりと優雅に地へ落ちていく時のように切なく儚いものだった。


届くことのない空へ想いを馳せながら、薔薇は静かに散っていく。
謝罪と感謝の言葉を残して。


ごめんね。
ありがとう。



風に乗った花びらが一枚、空に溶けて消えた。

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